夢還暦


平成10年(1998年)1月1日 年賀状

二瓶 晃一 (執筆当時35歳)

                                           

    夢  還  暦

                                

 1997年11月16日。私はジョホールバルと言うマレーシアの小さな町にいた。見上げるといつのまにか暗闇となった空に、なにやら霞のようなものがふわふわと浮いている。目をおろせばカクテル光線に浮かび上がる緑のピッチがあった。小さなスタジアムは何か4年前のドーハでの風景を連想させる。4年ぶりに会った友人はしきりとそれを気にしてる。やがてキックオフ。そして、午後11時34分。岡野のVゴールで日本はフランスへの切符を手にした。長い一日だった。 多くの人はフットボール(サッカーの事)を新しいスポーツとして認識されているが、日本でもその歴史は古く明治初期まで遡る事ができるし、W杯に日本が初めてエントリーしたのも、実は60年前のフランス大会だった。1936年のベルリン五輪で優勝候補スウェーデンを敗った日本はその勢いで、本当の世界チャンピオンを決める大会にエントリーしたのだ。アジアからのエントリーはたった2ヵ国。だが、予選があるはずだった1937年、日中戦争が勃発。日本は予選を棄権し、初のアジア代表の栄誉はオランダ領東インド(現在のインドネシア)が得た。   夢はつながっている---------1998年。60年ぶりの夢をのせて、日本は60年前の大会と同

じ地、フランスへ行く。そこには私の20年来の夢も入っている。高校生の時、アルゼンチンW杯を生TVで見て以来、スペインにもメキシコにもイタリアにもUSAにも日本がでるまではと行かなかった。今年、60年前の若者の夢を偲びながら、自由に旅ができる喜びをかみしめながら、私はフランスへ行きたい。