自転車旅行


平成7年(1995年)1月1日 年賀状

二瓶 晃一 (執筆当時32歳)

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 昨年からまちの若者達を中心に、劇団を結成し脚本を書いている。今年もまた2月に公演する予定だが、その脚本の中に80%事実の北海道への自転車旅行というエピソードを書いた。高校3年の夏休みに周囲の反対を押し切って、校則違反の一人旅にでかけた私の兄をモデルにしたものだが、その話をすると兄は、周囲の誰もが反対する中、今は故人となった石塚医院の院長先生が賛成してくれた事を話してくれた。石塚先生は東北大学に首席で入学し、首席で卒業した人で、町ではもう伝説的存在だったが、うちの兄が旅行の話をうちあけた時、「東北の医者なら皆俺を知っているから、何かあったらこれを持って病院にかけこめ」と、紹介状を書いてくれたのだそうだ。いつも雪駄なんかはいてペタペタと歩いていた風変わりな先生だったが、先生の人柄がにじみでているような気がしてぜひ書いておきたいと思った。                               

 北海道への自転車の旅はそう甘いものではなく、十分に準備したつもりだったみたいだが、やはり大変だった様だ。「旅先で親切にされたり、温かく迎えられると本当に嬉しかった。自転車のお客さんが来たら、たとえ泊められなくてもできるだけの事をしてやってくれ」今は郡山市に住む兄が、温泉旅館を継ぐ事になった私に残してくれた言葉だ。

 旅は人を大きくする。兄が北海道へ自転車旅行に旅立った夏、私は小学校一年だった。手作りの旅をまさに実践した十歳上の兄は、私の大きな目標であり、大きな誇りだった。そして、それは今も変わる事がない。兄が私の脚本を喜んでくれたのがとても嬉しかった。